サルオガセモドキ
 ウチナーンチュにしか(あるいは、ウチナーンチュでも若い人には知らない人も多いかもしれないが)解らない言葉「マチブル」、「マチブル」と聞くと、何となく懐かしい気分になり、さらに想像が進むと、何となくイライラしてくるに違いない。
 釣りをしている時の釣り糸がマチブル、凧揚げをしている時のタコ糸がマチブル、編み物している時の毛糸がマチブル、などと使う。糸などが絡み合ってグチャグチャ状態になることを指す。念のため、沖縄語辞典で確認する。
 マチブル、正確にはマチブユンと言い、ユンは和語で言うと、「何々する」の「する」の意があり、マチブルのルはそれであろう。ウチナーグチもヤマトゥグチ(和語)の影響を多く受けており、ウチナーヤマトゥグチなんて言語も存在する。マチブユンは「絡みつく、巻きつく」といった意味。男と女がナニする時にも使うみたいである。マチブイという言葉が別にあって、「男女の離れられない関係」を言うようだ。

 サルオガセモドキとは聞き慣れない名前で、私も今回調べるまで知らなかったのだが、チランジアの和名である。チランジアは昔、沖縄海洋博公園で見て、面白い植物があるもんだと、名前までは覚えていなかったが、その印象は記憶に残っていた。
 昨年秋、北海道の旅で北海道大学植物園を散策した際、そこの温室で久々にチランジアを見た。「あーこれは」と海洋博公園を思い出し、ラッキーなことに名札があったので、チランジアという名前も知った。それから一ヶ月ほど経った頃、散歩の途中、民家の庭に偶然発見する。この偶然は「私も紹介しなさい」と言っているみたいであった。

 サルオガセモドキは、緑色したタコ糸がぐちゃぐちゃに絡み合って木の枝に引っかかっているように見える。ウチナーグチで言えば、マチブって木の枝に引っかかっている。マチブっているものをほどきたくなる几帳面な性格の人も世の中にはいるであろうが、できたら、そっとしておきましょう。何せ、サルオガセモドキは、空気中から養分を得ることができる仙人のような植物なのだ。偉いのである。私もそうなりたい。

 サルオガセモドキ(猿麻桛擬き):観賞
 パイナップル科の多年草寄生植物 北米から南米に分布 方言名:不詳
 チランジアという名で呼ばれることもあるが、チランジアは学名の属名。チランジア属は観葉植物として人気のあるものが多く、『原色観葉植物写真集』(社団法人日本インドアグリーン協会編)には本種を含め6種が紹介されている。他の5種は同じパイナップル科のアナナス属に似ているが、本種だけは特異な姿をしている。名前もまた、他の5種がチランジア○○と洋風の名前であるのに対し、本種は和風。
 サルオガゼが広辞苑にあった。猿麻桛と書き、サルオガゼ科「サルオガセ属の地衣類の一群」で、「糸状でとろろ昆布に似る」とのこと。この「糸状で・・・針葉樹に付着、互いにからまりあって懸垂する」ところに本種が似ており、モドキがついてサルオガゼモドキという名前。学名だとチランジア・ウスネオイデになるが、私は和風が好き。
 細い茎に小さな葉が多数つく。茎は何本も絡み合うようにして垂れ下がる。根は無く、株全体を覆う銀白色の鱗片で空気中の水分や養分を吸収している。用途として、『沖縄植物野外活用図鑑』に「荷造りのクッション用」とあった。なるほどと合点する姿。
 記:島乃ガジ丸 2007.2.17  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
 『寺崎日本植物図譜』奥山春季編、(株)平凡社発行
 『琉球弧野山の花』片野田逸郎著、(株)南方新社発行
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