ノシラン
 末吉公園には川が流れている。その上流にある滝見橋の近辺にヤブランを大型にしたような植物が数株あって、数年前から気付いてはいたのだが、「ヤブランがあんまり歳取って大きくなったもの」と判断して、特に注視することはなかった。
 それが、一昨年の冬、ふと、その植物に目をやると、実を付けていた。その実がヤブランとは異なっていた。で、写真を撮り、調べる。ノシランであった。
 「そうか、野生のシランであったか、しかし、シランとは全く似ていないなぁ。」と私はいつものように早合点する。ノシランのある辺りは木が鬱蒼と茂っていて昼間でも薄暗い。そんな中、フラッシュ無しで撮った写真はボケボケであった。「また撮りに行けばいいや」と思いつつ、忘れて、結局、撮り直したのは1年後。その間ずっと、ノシランを野生のシラン、野紫蘭だと勘違いしたまま。
 ノシランは野紫蘭ではなく、熨斗蘭と書き、シランの仲間ではなく、見た目通り、ヤブランと同じユリ科(属は別)であった。
 職場にあるヤブランの花が今(9月)満開である。ならば、ノシランもと思って調べると、ノシランの開花期は7月から9月とある。「もう9月も下旬になる、すぐに花の写真を撮りに行かなくちゃあ。」と思い立って、シルバーウィークの初日、末吉公園へ出かける。滝見橋の近辺にあるノシランの数株、その内の1株に花は残っていた。

 ノシラン(熨斗蘭):添景・根締め
 ユリ科の多年草 東海地方以西〜沖縄などに分布 方言名:シギ
 『名前といわれ野の草花図鑑』に「花の形が熨斗に似ていることからついた名前」、及び「蘭は、葉が似ているから」とあった。おそらくその通りであろう。熨斗とは「のしあわびの略。方形の色紙を細長く、上が広く下の狭い六角形に折り畳み、その中に熨斗鮑(後には紙で代用)を小さく切って張り、進物に添えるもの。」(広辞苑)で、熨斗袋のノシ。のしあわびとは「アワビの肉を薄くはぎ、引き伸ばして乾かしたもの。」(同)
 方言名のシギについては不明。ヤブランの方言名も同じくシギとなっている。本種とヤブラン、同科だが別属であり、花の形、実の色形が違う。だが、花の付き方、葉の出方、葉の形がほぼ同じでよく似ている。ウチナーンチュにとっては同じものとなる。
 高さ30〜70センチ、葉の長さは30〜80ていど、根元から多く出す。葉脇から30センチていどの花茎を出し、白色の花を穂状に多くつける。開花期は7〜9月。
 『沖縄植物野外観察図鑑』に、「果実は楕円形で碧色に熟する。」とあったが、碧色がどいう色なのか私のイメージに無い、で、広辞苑、「深みのあるあおいろ。青緑色。」とのこと。それならば確かに、春の実は青みがかっていた。
 海岸付近や林などに生育。沖縄では石灰岩地帯の樹下に多いとのこと。ちなみに学名、
 本種はOphiopogon jaburan (Kunth) Lodd.
 ヤブランはLiriope muscari (Decne.) L.H.Bailey.
 シランはラン科で、Bletilla striata Reichb.

 花

 12月の実

 3月の実
 記:島乃ガジ丸 2009.9.19  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
 『寺崎日本植物図譜』奥山春季編、(株)平凡社発行
 『琉球弧野山の花』片野田逸郎著、(株)南方新社発行
 『原色観葉植物写真集』(社)日本インドア・ガーデン協会編、誠文堂新光社発行
 『名前といわれ野の草花図鑑』杉村昇著、偕成社発行
 『亜熱帯沖縄の花』アクアコーラル企画編集部編集、屋比久壮実発行
 『沖縄四季の花木』沖縄生物教育研究会著、沖縄タイムス社発行
 『沖縄の野山を楽しむ植物の本』屋比久壮実著、発行
 『海岸植物の本』アクアコーラル企画発行
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