クワズイモ
 若い頃、1年くらい測量助手のバイトをやったことがある。道路拡幅工事のための測量は、現存の細い道路と、その周辺の建物の辺りをウロチョロするだけなので、ほとんど何の障害も危険も無い。時々、民家に飼われている犬に吼えられるくらいだ。ところが、道路新設工事のための測量は、そういった宅地周辺だけでなく、原野の中にも入って行ったりする。これにはいろいろと障害や危険が伴う。
 原野の中に入ると道が無いので足元がまず危ない。崖になったところもあるので慎重に歩く。そして、危険な生物も原野には生息している。先ずはハブ、そしてスズメバチ、命に関わるということはないが、アシナガバチやミツバチにも遭遇する。1年の間に、スズメバチの巣を見たし、同行の一人がミツバチに刺されるのも見た。ハブは、人間の歩く音で概ね(たまには襲い掛かるらしいが)逃げていくようなので、一度もお目にかからなかったが、サトウキビ畑を測量しているときに、アオヘビが足元を横切るのは見た。
 崖から滑り落ちることも無く、蜂に刺されることも無く、ハブに会うことも無く過ぎた1年だったが、作業中に一度だけ、楽しくない経験をさせてもらった。

 測量は、ある地点からある地点までの距離や、ある地点とある地点の高さ(結果的には海抜何mというのが判る)の差などを計るのが現場の作業で、測量士のいる位置を原点とし、助手は、測量士のいる原点から距離や高さを知りたい地点まで行って、そこで立っていなければならない。だから、社員の測量士よりも先に、アルバイトの助手の方がたいていは先に、原野の、先に何があるか知れない中に踏み込んでいかなければならない。
 測量には伐採という作業もある。これも、先に進む助手の仕事。見通しが悪くて測量ができないときには、測量士と助手との間の邪魔になっている雑木やススキなどの雑草を取り除くのだ。その作業には鉈を用いる。鉈を振って、雑木雑草をなぎ倒す。この時に、間違って蜂の巣でも倒そうものならえらいことになるが、それは無かった。

 ある日、そうやって伐採作業をやった後、刈り倒した雑草を素手で掴んで、邪魔にならない場所にどけていたら、後からやってきた測量士が、「あー、それは素手で触らない方がいいよ。痒くなるよ。」と言った。その時は何とも無かったので、「平気です。」と答えたのだが、仕事が終わって、家に帰ってからが大変だった。今ではもう、多少のことでは被れたりしない肌になっている私だが、当時はまだ若い柔肌のこと。赤い発疹が両方の腕から手の甲にかけて発生した。ヒジョーに痒かった。
 その夜のうちに痒みは引いたが、翌日、測量士に尋ねた。私が素手で掴んだのはクワズイモという植物。その汁に触れると痒くなるとのこと。前日、私が掴んでいたいくつものクワズイモは、そのどれもが切り口からたっぷりと汁を垂らしていた。

 クワズイモ(不喰芋):草本・観葉植物
 サトイモ科の多年草 分布は九州南部、沖縄、他 方言名:ンバシ、ハチコーンム
 クワズイモという名は、葉の形がサトイモに似ているが食べられないことから来ているとのこと。クエナイイモとした方が日本語的には適当と思うが、語感的にクワズイモの方が良いみたいである。別名ドクイモと言い、汁液にシュウ酸を多く含むため、皮膚につくとかぶれる。英語名はHawaiian giant taro。ハワイの大きなタロイモといったことであろう。高さは1m前後だが、葉は大きい。傘に使えるくらいになる。
 光沢のある大きな葉に観賞価値があり、観葉植物として室内装飾に用いられる。
 半日陰、高温多湿を好む。よく見かけるナンクルミー(自然発生)する植物の一つ。

 花

 葉の大きさ
 記:島乃ガジ丸 2005.2.18  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
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