ケブカルイラソウ
 漠然とした昔の、アジアのある国にルイラという名前の僧侶がいた。ある年、ルイラは布教のために琉球へやってくる。彼は、頭は禿げていたが、眉毛から下はまるでウチナーンチュの、毛深いと言われている人よりもなお毛深かかったので、ウチナーンチュたちは皆、そういった意味のケーマーという形容詞を前につけて、ケーマールイラ僧という愛称で彼を呼び、親しく付き合った。そんな彼が倭国へ渡った。付き人のウチナーンチュの通訳で、愛称のケーマーが和語に訳された。倭国において、彼は毛深ルイラ僧と呼ばれ、また、彼が土産として持ってきた植物もその名前で呼ばれるようになったのである。

 ケブカルイラソウは毛深いルイラ草ということである。全体に毛が多いルイラ(属名)という名前の草なので、そういう名前となっている。言うまでも無く、上記の話は、まったく根拠の無い作り話であり、ルイラという名前の僧侶がいたことも、彼が沖縄へ来たということも、毛深かったということも、まったく、そんな記録は無い。しかし、ウチナーンチュがケーマー(毛深い)ということに関しては、それは真実であり、私自身で証明はできない(私は薄い、頭も)が、その証明に困ることは、まったく無い。

 ケブカルイラソウ(毛深るいら草):花壇
 キツネノマゴ科の多年草 原産地は北アメリカ 方言名:なし
 ケブカル、イラソウでは無く、ケブカ、ルイラソウと分かれる。ルイラソウは、ヤナギバルイラソウに続いて2種目。ルイラソウのルイラは属名のRuelliaから。本種は草全体に毛が多く生えているところからケブカとなる。しかしながら、毛深いルイラ草では、字面が悪いし、響きも良くない。ここは沖縄方言のケーマーを用いて、ケーマールイラソウではいかがだろうか。ラップのバンド名にしてもいいほど、音も響きもカッコいい。
 草丈が低く、地被状となる。淡い紫色の花は直径2センチ、長さ5センチほどのラッパ状で、葉の付け根から咲く。開花期、文献には「夏から秋にかけて咲く」とあったが、近所のものは4月から咲いていた。もしかしたら品種が違うのかもしれない。

 花
 記:島乃ガジ丸 2006.5.22  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
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