ホウライシダ
 私は怒鳴るのも嫌いだが、怒鳴られるのも嫌いである。大学生活で東京にいる頃、バイト先で怒鳴る人のいるところはストレスとなった。怒鳴り合うことで気合が入り、仕事が上手く行く人もいるかもしれないが、「大声出さなくても聞こえるし、むしろ、静かに語った方が何を言っているのか理解しやすいです。」と私は言いたかった。
 怒鳴るのも怒鳴られるのも、何しろ煩い。私は煩いのが嫌い。車のクラクションもテレビの大音量も嫌だし、音だけでなく、前髪が伸びて目に当たるのも煩いと思う。
 シダ植物は既に数種紹介しているが、ワラビは大きすぎて、ホシダは広がり過ぎて煩いと思う。ワラビを庭の景色として植えているのを見たことが無い。ホシダは庭でよく見るが、雑草扱いされている。煩いのは庭の景色に向かないのだと思う。
 タマシダやオオタニワタリ、オキナワウラボシなどは景色となる。オオタニワタリは大きいが、形が整っている。タマシダやオキナワウラボシはこじんまりとして、広がり方も遠慮勝ちである。控えめなので煩くない。なので庭の景色に向く。
 今回紹介するホウライシダは、小さいシダだが、壁の一面に広がったりしているのを見るので、私は初め雑草の部類に入れようと思った。文献に「庭の材」とあった。そう言えば、壁の一面に広がっていても煩さを感じない。丈が低いので遠目に見れば緑の壁掛けに見えないことは無い。大きめの苔と思えば、そう思えないこともない。

 ホウライシダ(蓬莱羊歯):石庭の装飾など
 イノモトソウ科の常緑シダ 関東南部〜南西諸島、他に分布 方言名:カヌッワ
 名前の由来は資料が無く不明。蓬莱は「中国の伝説で、東海中にあって仙人が住み、不老不死の地とされる霊山」(広辞苑)のこと。前にホウライチクを紹介しているが、その頁では「蓬莱は中国伝承の神仙境の意でこの竹を賞賛して名付けられた」と書いたが、本種は「賞賛する」ほどのシダとは思えない。おそらく、「霊山のような深い山の中に見られるから」ということではないかと思われる。
 石灰岩質で日陰の環境を好み、岩肌や井戸の周辺に生える。根茎は短く、それが岩などに吸着する。葉柄や葉軸は濃紫色で光沢があり、葉は密に出る。葉の小羽片の上部がいくつかに裂け、その部分が裏側に折れ曲がって、そこに胞子がある。
 初め、雑草扱いしようと思ったが、『沖縄園芸大百科』によると庭の装飾や鉢物などに使われるらしい。鉢物と言えば、観葉植物で有名なアジアンタムと同属とのこと。アジアンタムに比べると全体に小型で、高さは10〜25センチ。
 日本の他、台湾、中国、その他熱帯地方に広く分布する。
 記:島乃ガジ丸 2010.11.23  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
 『寺崎日本植物図譜』奥山春季編、(株)平凡社発行
 『琉球弧野山の花』片野田逸郎著、(株)南方新社発行
 『原色観葉植物写真集』(社)日本インドア・ガーデン協会編、誠文堂新光社発行
 『名前といわれ野の草花図鑑』杉村昇著、偕成社発行
 『亜熱帯沖縄の花』アクアコーラル企画編集部編集、屋比久壮実発行
 『沖縄四季の花木』沖縄生物教育研究会著、沖縄タイムス社発行
 『沖縄の野山を楽しむ植物の本』屋比久壮実著、発行
 『海岸植物の本』アクアコーラル企画発行
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