ハマオモト
 数年前の夏のある日、選挙の投票があって、投票所になっている近くの小学校まで出掛けた。午後3時の、ギンギンの太陽がガンガン照り付ける路上を、少しでも陰のあるところを選びながら歩いて行った。投票が終わって外に出たら、元同僚に出会った。彼はその前の年の春、怪我をして会社を辞めた。当時55歳であった。少しユンタク(おしゃべり)した。
 彼は去年の春、女房と子供に逃げられた。原因は彼の酒乱だった。酔って、女房に諌められて、女房を殴ろうとして、息子に止められて、まだ新品だった息子のテレビを2階の窓から投げ捨て、自らは部屋の壁を拳で叩き続け、血だらけになって疲れて寝てしまい、翌朝目覚めたら、激しく散らかった家の中に独りとなり、そのままずっと独りでいるとのこと。仕事も無く金も無く、料理もできないので、ろくに飯を食っていないとのこと。
 「痩せて行く一方だよ」と、頬がこけ、皺の増えた顔が、弱々しく笑いながら言った。青空の下では似合わない、そんな悲惨な話を聞いて、
 「生きていればそのうち良いこともありますよ」と、いいかげんで無責任な慰めを言って、私は彼と別れた。その足で、図書館へ向かった。

 学校から図書館への途中、団地の庭の一角に大きな花が咲いているのが見えた。それはよく知っている花、遠くからでもすぐそれと判る白い花、ハマオモト。明るい色と踊っているような形の花びらをしている。夏の青空の下、ギラギラの太陽に照らされて、人間の不幸とは全く無縁に、いかにも健康そうに咲いていた。

 ハマオモト(浜万年青):花壇
 ヒガンバナ科の多年草 原産分布は関東以南、東南アジア 方言名:サダクビー
 海岸の砂地でよく生育し、自生する。で、浜の万年青ということになるのだが、ハマオモトはオモトの種類では無い。オモトはユリ科の植物。ただ、ハマオモトの葉がオモトに似ているというところからその名になっている。
 葉の根元から長い花茎を出し、その先端に大きな白い花を咲かす。大きく育ったものは高さ1m余にもなる。白花以外にも多くの変種がある。開花期は6月から8月。
 種は水に浮くので、おそらくいくつかは海を流れて、別の浜にたどり着き、そこで芽を出し繁殖するのだろう。沖縄の浜の多くでハマオモトを見ることができる。この夏の海の花は、別名をハマユウ(浜木綿)という。よく耳にするのはこっちの方かもしれない。

 花
 記:島乃ガジ丸 2005.6.5   ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
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