サンユウカ
 さっき、ドアをノックする音があって、出ると、新聞の勧誘だった。
 「ご主人様ですか。今、新聞はどちらをお取りですか?」と訊く。ウチナーンチュ(沖縄人)とは思えないような丁寧な言葉遣いだ。一般的ウチナーンチュ勧誘員なら、
 「あのー、○○新聞ですが、今、どこの新聞を取っていますか?」となる。丁寧な勧誘員の丁寧な言葉には良い感じを受けたが、
 「新聞は取らないことにしています。」と言って、断る。東京辺りの新聞勧誘員は、今でもそうかは知らぬが、実にしつこくて、断るのも喧嘩腰だった。
 「三ヶ月くらいいいじゃないの。お付合いだと思ってよ。」などと言うので、
 「何で、俺がアンタと付き合わなければならないんだ!」と言い返すことになる。沖縄の勧誘員にはそのようなしつこい人はいない。「取らない」は1回言えば済む。「では、また今度お願いします。」と言って、さっと引き下がる。

 私はもう、たっぷりどっぷりオジサンなので、オジサンと呼ばれることにこれっぽっちも違和感を持っていない。ご主人とか旦那さんとか言われても同様。だが、今回の、丁寧な勧誘員に言われた「ご主人様」には大いに違和感があって、思わず後ろを振り返って、誰か私以外にいるのかと疑いたくなるほどであった。
 私自身は、“様”という言葉をほとんど口にしない。「奥様、ご主人様、お客様」は、「奥さん、ご主人さん、お客さん」と言う。従姉の長男の嫁は神奈川出身の、才色兼備の若妻であるが、彼女は、舅、姑のことをそれぞれ、お父様、お母様と呼ぶ。従姉が「お母様」と呼ばれることに対しては、私が「ご主人様」と呼ばれること以上に違和感がある。「沖縄の、ただのオバサンだぜ、どこをどう見れば“お母様”になるんだい。」と思う。

 数年前に、その“お母様”の新築の庭にサンユウカの苗木を植えた。場所はアプローチの目立つところ、そこに“お母様”はクチナシを所望したのだが、クチナシは「口無し」に繋がり、玄関前に植えるのは縁起が悪いとされている。そこで、クチナシに似て、香りのする白い花のサンユウカを植えたのだ。それから2、3年が経って、苗木が大きくなって花が咲いた。花は、しかし、クチナシだった。どうやら私が間違えたようだ。
 サンユウカとクチナシは香りのする白い花だけでなく、樹形も葉の形も似ている。似ているが科が違う。クチナシはアカネ科、サンユウカはキョウチクトウ科。
 “お母様”は私の間違いを責めることはなかった。「いいさあ、上等さあ、私はクチナシが好きなのよ。」と言って笑う。明日は明日の風が吹く沖縄のオバサンにとって、縁起なんてどうでも良かったらしい。確かに、クチナシの悪影響は一切無く、むしろ、その後、息子が結婚し、孫が生まれ、娘も結婚した。“お母様”は良いこと続きなのであった。
 ところで、姑のことを“お母様”と呼ぶ才色兼備の若妻は、亭主のことも「旦那様」と呼ぶのであろうか。呼ばれた方は照れくさく無いだろうか。今度、訊いてみよう。

 ヤエサンユウカ(八重三友花):添景
 キョウチクトウ科の常緑低木 原産分布はインド 方言名:無し
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』には、「高さ1〜3mになる常緑の低木」とあったが、私の経験では、生垣や寄植えとして、刈り込まれて低木のように利用されているのをあまり見たことが無い。1本を単独に植えて添景としたものはよく見る。庭木としては中木。
 ヤエサンユウカは八重咲きのサンユウカということで、サンユウカの園芸品種となる。基本種のサンユウカは5弁の一重咲き。民家の庭などで見かけるものはヤエサンユウカの方が多い。花色が白、夜に芳香を放つという点は同じ。開花期は4月から9月。
 半日陰でも生育するので、庭の日の当たらない箇所への添景材料として重宝する。

 花
 記:2005.2.26 島乃ガジ丸  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
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