モクビャッコウ
 先日(3月26日)、Hの家で泡盛の古酒入り壺の口切式(詳しくは「父の遺産、叔父の計算」)があって、出掛けた。早めに家を出て、歩いて行く。1時間もあれば足りる距離を、遠回りして、ブラブラ景色を眺めながら、イッペーなどの花があればとカメラ片手にのんびり行く。写真の収穫はほとんど無いまま薄暗くなった頃、Hの家に着いた。
 新築したときのH家の庭は、やたら石の多い固い庭であった。しかも、その数え切れないほどの石のほとんどは雑然と置かれており、そこにいると何だか不安な気分になる落ち着かない庭であった。そんな私の気分がH夫妻にも理解できるようになり、新築から数年後に夫妻は一念発起、庭を作り直した。石の多くを撤去し、その分、緑を増やした。
 緑を増やした庭は格段と良くなったが、その数年後にはまた、落ち着かない庭となってしまう。商売をやっているH夫妻は忙しい。そのせいで、庭の手入れができないのだ。緑の増えた庭は、その緑の全てが好き勝手に伸び放題となり、荒れてしまったのであった。
 H邸の門は公道から10mほど入ったところにあり、その間は幅3mほどのHの私道となっている。その道の左手は隣家の畑があって、畑には野菜ではなく緑化植物、リュウキュウコクタン、イヌマキなどが植えられてある。良い景色である。右手は1mほどの高さの花壇があり、そこはHの管轄なので、まあ、概ね雑草に占められていた。

 ある年、H夫妻が一念発起して庭を作り変えてから少し後、その花壇がきれいに整理され、1mほどの間隔にモクビャッコウが5、6株植えられていた。モクビャッコウは放っておいても自然に良い形となるので、その花壇全体が、そのお陰で良い景色となった。
 「おー、門前の花壇、なかなかイイじゃないか。」と私が誉めると
 「私たちがやったんじゃないのよ。隣のオジサン(畑の持ち主)が見るに見かねて植えてくれたのよ。」とHの女房が答えた。
 しかし、それから1年(あるいは半年だったかも)も経たないうちに、H邸の門前の花壇は雑草に覆われる。モクビャッコウは成長して、自らの力を十分に発揮はしているのだが、ススキやセンダングサといった雑草の生育の早さには勝てない。しだいに、周りを雑草に占められ、その姿も雑草の中に埋もれてしまうようになった。H家のために良かれと思ってモクビャッコウを植えた隣のオジサンも、H家のために良かれと精一杯生育しようとしたモクビャッコウも、その親切と努力は無駄に終わってしまったのであった。

 H夫妻も、ここ数年はいくらか暇もできたようで、たまには庭手入れをやっているらしい。その日訪ねた時も以前のようには荒れた庭では無かった。が、門前の花壇にまではまだ手が回らないようで、花壇は相変わらず雑草の生育場所のまま。隣のオジサンも、H夫妻へ期待するのは無駄だと思っているのか、2度目の親切はしないまま。オジサンの最初の親切であったモクビャッコウもまた、既にその存在を消してしまっている。全体を雑草に覆われ陽光を浴びることができず、水も与えられず、いつしか枯死したのであった。

 モクビャッコウ(木白虹):添景・庭木・盆栽
 キク科の常緑低木。原産分布は小笠原、琉球列島、台湾。方言名:イシヂク、ハマギク
 海岸の岩上に生えているのでイシヂク(石菊)という方言名となっている。
 高さ30〜60cmでこぢんまりとまとまり、自然の形で傘状に整う。茎の分枝が多く、茎葉に灰色軟毛が密生して全体が灰色に見える。他の庭木とは異なった色であり、形も良いため、庭のアクセントとして使い勝手が良い。
 自生地がそうなので当然、潮風に強い。よって、海岸端の庭木に使える。よく日の当る石垣の上部などに添景としておくと良い。加湿地では枯れることがあるので気をつける。
 10月から12月にかけて黄色の花をつけるが、モクビャッコウの花がどうのこうのと話は出ない。観賞価値はもっぱら、こんもりとまとまった樹形と灰色の葉の方にある。
 記:2005.4.2 島乃ガジ丸  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
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