コエビソウ
 私の住んでいるアパートは、大家さんには失礼だが、ボロアパートである。住んでから12年になるが、12年前からボロであった。外廊下の電気は点かない。コンクリートはところどころ剥がれている。風呂場の天井にはカビが生えていた。コンクリートの庇の先からつららが垂れ下がっているところを見ると、その時既に、築30年くらいにはなっていたであろう。コンクリートのつららとは、コンクリートに混ぜられた砂、砂利などの成分が溶け出して、それが鍾乳石のように垂れ下がったもののことである。
 しかし、この12年で、建物の老化はさほど進んでいない。換気扇の覆いが台風のときに飛ばされたのと、台所の床が抜けそうになったことくらいである。私という人が住んでいるからであると思われる。人が住んでいない家は風化が速く進むと言われている。
 2月だったか、友人の実家を訪ねた。彼女の父親が数年の間一人で住んでいたが、彼が入院した後はずっと空き家となっていた。人の住まない家は、やはり荒れていた。
 大きな松の木の目立つ、池のある落ち着いた庭は、庭弄りの好きであったらしい父親によって、いつも(といっても、私は過去に数回しか見てないが)きれいにされていた。ところが、その日見た庭は昔の面影が微塵も残っていなかった。

 雑草の蔓延った中を歩き回った。珍しいものがあれば写真に撮ろうと思ってのこと。そう珍しくは無いが、私のアルバムにはまだ収録されていない植物が、その花を咲かせていた。家に人はいなくても花は咲く。「なんと健気な」と私は思いつつ、写真を撮った。
 その植物は、前に私がコユビソウ(小指草)と間違えて覚えていたもの。恋人のような花でも咲くかとロマンを感じていたもの。正しくはコエビソウ。

 コエビソウ(小海老草):花壇・生垣・鉢物
 キツネノマゴ科の常緑低木 原産分布はメキシコ 方言名:なし
 名前の由来、『沖縄の都市緑化図鑑』に「花の形がエビの尾に似ているから」とあり、『沖縄植物野外活用図鑑』に「花穂全体が小さいエビに似ているから」とあった。私の見た感じではどちらも正しい。よって、どちらでも良い。
 低木に、つまり、木本性に分類されているが、名前にソウ(草)とあるように、草本性に見える。幹枝が細いのでそう見える。幹枝が細いので、単独では倒れやすい。支柱を立ててあげると上に伸び、高さ2mほどにまでなる。
 半日陰を好むので、陰地になる花壇の植栽に向く。また、分枝が多いので自然にこんもりとした形になり、建物の陰となる箇所の生垣にも向く。
 花は、褐色の苞葉からエビの尾のようにちょこっと飛び出している。筒状の花は小さいが、褐色の苞葉に対し、白色が良く目だって可愛らしい。開花期は周年。

 花

 北海道産
 記:島乃ガジ丸 2007.4.15  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
 『寺崎日本植物図譜』奥山春季編、(株)平凡社発行
 『琉球弧野山の花』片野田逸郎著、(株)南方新社発行
 『原色観葉植物写真集』(社)日本インドア・ガーデン協会編、誠文堂新光社発行
 『亜熱帯沖縄の花』アクアコーラル企画編集部編集、屋比久壮実発行
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