コデマリ
 以前、職場の事務員をしていたAさんは、若くて、可愛くて、見た目はすごく真面目そうな人であったが、しかし、チャランポランな性格であった。
 「Aさん、飲み会を計画しているけど、参加するかい?」
 「うん、行く、行く。今週はだめだけど、来週なら空いている。」
 「それじゃあ、来週の土曜日にしようね。」
 「はい、楽しみにしています。」
というやりとりがあって、その土曜日、一週間延期したにも関わらず、皆がそれぞれ都合をつけて集まった飲み屋に、彼女は来なかった。ドタキャンでは無い。彼女からは何の連絡も無かった。彼女の先輩たちは皆、すっぽかされたのであった。
 翌週の月曜日、彼女から何らかの謝り、言い訳の言葉があるのかと思っていたのだが、飲み会のことなんか全く記憶に無いかのように、平然として、何の話も無かった。「オメェが言うから一週間延期したんだぜ!」と腹を立てている私であったが、あまりにも平然としている彼女を見て、問い詰める意欲を失くしてしまった。
 それから数ヵ月後、彼女は会社を辞めて、数週間後には「結婚しました」との報告があった。ならば彼女は、飲み会の頃は恋愛中だったのであろう。職場の飲み会なんかより、恋人と一緒にいることがはるかに楽しく、大切だったのであろう。納得。
 「結婚しました」報告からしばらくして、私の金曜日の職場に彼女がやってきた。金曜日の職場の隣は産婦人科となっている。そこに用事があって、そのついでとのこと。チャランポランも母親になるとのこと。ニコニコして、いかにも幸せそうであった。

 その産婦人科の玄関前にコデマリの木がある。毎年花を咲かせてくれるが、去年まではそれがコデマリだとは思わなかった。倭国を旅して、コデマリの、名前の通り毬状にかたまった花が、枝に一杯付いているのを見知っている私は、ちょぼちょぼとしか花の付いていない産婦人科の植物がコデマリとは気付かなかったのであった。今回じっくり観て判った。毬状とは言い難いが、花の一つ一つはコデマリ。葉の形状もコデマリであった。

 コデマリ(小手毬);添景・生垣
 バラ科の落葉低木 原産地は中国 方言名:なし
 枝先に白い小さな花が20個ほどかたまってつき、丸い形状となる。それが小さな手毬のように見えるところからコデマリという名前。
 成長は早いが、高さは2mほどに留まり、庭の添景として使い良い。根際から多数の枝を出し、長く伸びる。枝は細いので上部では弓状に曲がる。曲がったその先に花を上向きにつける。本土では白い手毬が樹冠一面に付き、美しい景観となるが、沖縄ではあまり花付きは良くない。毬状についたものを、私は見たことが無い。開花期は3月から5月。
 「日本へは古い時代に中国から渡ってきて観賞用に栽培された」と文献にある通り、名前はごく有名で、本土では民家の庭や公園で実物もよく見かける。沖縄でも時々見かけるが、花付きがよくないせいか、そう多くは無い。

 花
 記:島乃ガジ丸 2006.4.18  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
inserted by FC2 system