キントラノオ
 団塊の世代である従姉夫婦は、自分たちの別荘の庭に沖縄ではあまり見かけることの無い珍しい植物を植栽している。珍しい植物を植えることと、彼らが団塊の世代であるということは無関係では無い、と私は思う。珍しい植物を植えると周りに注目される。それによって、自分たちは他の人たちとは違うのだという思いを持つことができる。
 同世代がいっぱいいるけれど、私は、その中でもちょっと違うのよ。私は烏合の衆の一人ではないのよ。などと主張しているように見える。
 別荘が完成してそう日も経たないうちに、亭主が転勤で沖縄を離れることになった。女房の方も付いていった。彼らの2人の子供、長男と長女はその頃どちらも大学生で、神奈川に住んでいた。そんなわけで、その別荘の管理は私に任された。管理をするついでに庭造りも任された。庭は、好きなように作っていいということであった

 週末にそこへ出かけ、少しずつ庭を作っていく。建物の概観は洋風だが、中には茶室もあるので、洋風の茶庭風ということになる。庭は広く、明るい。沖縄の太陽と青空が景色の中にある。したがって、洋風の茶庭風で、なおかつ沖縄風にもなる。面倒。
 面倒なのでこの際、洋風は建物だけに任せておいて、庭は、茶庭風の沖縄風にしようと決める。形を茶庭、材料を沖縄ということにする。で、1年後くらいにはだいたいできあがった。園路を歩き、橋を渡って、飛石を踏み、茶室へ至る形となる。
 植栽材料のほとんどは沖縄の庭によく利用されているもの。30種ばかりを植えた。それから3、4年経って、従姉夫婦が沖縄に帰ってきて、さらにそれから5、6年が過ぎたのだが、珍しモノ好きの彼らによって、沖縄モノは珍しモノに替わっていった。私の植えた30種は、今はもう10種ほどしか残っていない。

 残ったものの中にキントラノオがある。キントラノオは古くから沖縄にあるものではなく、民家の庭や公園にそう多くは見かけない。そのせいか、従姉夫婦はこれを残してくれているようである。残される安心を感じてか、あるいは、残して欲しいという一心からかキントラノオは、10年以上経った今でも毎年きれいな花を咲かせてくれている。

 キントラノオ(金虎の尾):添景・生垣
 キントラノオ科の常緑低木 原産分布はパナマ、メキシコ 方言名:なし
 トラノオというと、チトセラン(リュウゼツラン科の多年生草本。サンセベリアともいう)をすぐに思い浮かべて、黄色のチトセランかと想像してしまうが、まるっきり違う。キントラノオ科には他に、既にガジ丸HPで紹介済みのコウシュンカズラ、アセローラなどがある。本種は別属ではあるが、コウシュンカズラに葉や花が似ている。
 葉は比較的小さく柔らかさがあり、刈込めばよく分枝し密につけるので、花が咲いていない時期でも添景や生垣として十分良い景色となってくれる。枝先に黄色の花を多数穂状につけ、盛りの頃は樹冠が黄色に染まる。開花期は6月から11月。高さは1mほど。
 陽光地を好むが、夏場の強い直射日光は避けた方が良い。潮風に弱いので海岸近くの植栽には向かない。強風にも弱く、強い風に当たり続ける場所では花付が悪くなる。
 別名にガルフィミアとあるが、これは学名の属名。

 花
 記:島乃ガジ丸 2005.9.7  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
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