カンノンチク/シュロチク
 三年前だったか、奈良を旅したことがある。美術は好きな方で、旅に出るとその土地にある主な美術館などはたいてい観て回っている。美術であれば何でも好きというわけでは無く、観るのは洋画の油絵がほとんどで、彫刻、書などはたいてい素通りしている。
 仏教美術にもそれまでは興味が無くて、ほとんど観ることは無かったのだが、ある日、テレビで奈良の何とか言う寺の四天王像を見て、ふと、「あ、この人(仏像のこと)は何か深い思いを抱いている。」と感じた。で、急に興味を覚え、奈良に出掛けた。
 偶然、とその時は思ったのだが、後で考えれば、テレビはたぶんその催事の紹介だったのだろう、奈良では仏教と仏教美術に関する大きな催し物(資料が残っているので詳述もできるが、それはまた別の機会に譲る)が行われていた。
 二泊三日でいくつかの寺院を観て回り、美術館、博物館などを巡った。曼荼羅などのように、私には理解できない美術も多くあったが、仏教彫刻、主に仏像については、その良さを少し理解できたように感じた。全体の姿と表情の中に、その仏の存在する意味が込められているようであった。仏像を作る人(仏師というらしい)の仏教に対する理解力と、知識と感性と、そして、それらを表現する力量がすごい、と感じたのであった。

 カンノンチクという植物がある。職場の庭にも植えられてある身近な植物。観葉植物としてもよく知られている。奈良の旅以来、仏像に興味を持っていたので、カンノンチクは観音様と何か関係があるのかと調べてみた。観音は、正しくは観世音(かんぜおん)といい、広辞苑によると、「大慈大悲で衆生を済度することを本願とし、勢至菩薩と共に阿弥陀如来の脇侍。衆生の求めに応じて種々に姿を変える菩薩」とある。同じく広辞苑によるカンノンチクは、「沖縄の観音山から出たので、こう名づけたという」とあった。
 観音山を調べる。『沖縄大百科事典』には無い。年配の人に訊いても知らないという。『沖縄園芸百科』に、「カンノンチクは結実困難、採種できない」とある。広辞苑には原産地として沖縄が挙げられていた。が、結実しないのに原産地とはおかしくないか?
 広辞苑が何を参考にしたのかは知らないが、観音山は何処にある?種ができないのに原産地とは如何?などのカンノンチクの、その謎解き、時間がかかりそうなので、今の私にはできない。そして、あまり楽しそうでもないので、明日からの私にもきっとできないだろう。また、興味を示す人も少なかろう。それよりも、自分もやるくせに、私が屁をこいたら異常に怒る女の、その心の謎解きの方がずっと面白そうだ。これは、いつかやる。

 もう一つ、カンノンチクの記述で、広辞苑には「常緑低木」とあり、『沖縄園芸百科』には「常緑小高木」とある。高さも前者は2m、後者は3mと記述されている。私の経験では後者の方が正しい。よって、カンノンチクは常緑中木の範疇に入れた。

 カンノンチク(観音竹):添景・鉢物
 ヤシ科の常緑中木 原産分布は中国南部 方言名:カンヌンチク、ウマブチ
 前述の通り、私の経験では中木の添景としてよく見かけるので、中木とする。
 別名リュウキュウシュロチク、高さ3m。シュロチクよりも小葉が少なく、小葉の幅が広い。3月から6月に円錐花序の花を多数つけるが、花よりも葉や全体の姿に観賞価値がある。地植えにすると地下茎から芽を出し、増えていく。増え方はそう早くは無いので、時々、邪魔な株を取り除くと良い。鉢植えにして観葉植物としても景色が良い。
 学名 Rhapis excelsa


 シュロチク(棕櫚竹):添景・鉢物
 ヤシ科の常緑低木 原産分布は中国南部 方言名:無し
 多くは観葉植物として栽培されている。高さは3m。葉が棕櫚の葉に似ていて、茎が竹に似ていることから棕櫚竹という名とのこと。カンノンチクと同じカンノンチク属。カンノンチクよりも低温に強いので、関東以西だと露地植えもできるとある。
 学名 Rhapis humilis
 記:2005.2.26 島乃ガジ丸  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
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