フクシア
 10年ほど前、仕事で久米島へ行った。私を含め同僚5人で2週間ばかり滞在した。私を除く4人は釣を趣味としており、豊かな海の広がる久米島ならば当然、それぞれが自慢の釣道具を携帯している。私はリール、錘、針、糸、浮、竿等々一式揃って980円の、おもちゃのような釣セットを携帯した。そのセットとは別に疑似餌も持った。
 疑似餌はイカ釣り用。であるが、私はそれまでにイカ釣りの経験は無かった。イカに拘ったのは、「皆が魚を釣る。魚はどれも似たような味である。イカの味は魚とはだいぶ異なっている。イカがあれば酒の肴にバラエティーができる。」という理由に拠る。
 久米島に着いたその日、早速、私はイカ釣りに挑戦した。その記念すべき第一投で、500円(釣セットの半分の値段)もした疑似餌が糸を切って、波の彼方へ消えた。安物の小さな竿に疑似餌は重すぎたようであった。青空の下、心地良い潮風が吹く中で、チルダイ(がっくりという意味のウチナーグチ)する私を、皆が笑った。

 その後、私は浮釣に切り替える。浮釣は何度も経験があり、得意である。じつは、それしかできないと言ってもいい。投げ釣(ぶっこみとか言う)も船からのサビキ釣も数回の経験はあるが、浮釣が私の好みとなっている。性に合っている。
 波の穏やかな海面に漂う浮をぼんやり見つめ、時間を過ごすのが好きなのである。魚は釣れなくても良いのである。まあ、釣れるにこしたことはないが、釣れても2、3匹で良いのである。あんまり釣れて忙しいのを、私は好きで無い。
 その日、投げ釣でひっきりなしに動いている皆を横目に、私は寝そべってボーっと浮を眺めていた。皆がなかなか釣れないのを横目に、私の竿に30センチのチヌがかかった。安物の竿が折れそうな勢いで海に引き込まれた。糸を直接掴んで、何とか上げた。
 棒状の浮が2、3回、軽く水面に沈んだ後、グイっと深く沈んだら、その獲物はたいていチヌである。引きも強い。浮釣はその辺りのタイミングを計るのが面白い。

 釣浮草という名前の植物がある。花が下向きに垂れ下がって咲く様子が釣浮のようだ、ということであろう。良い名前である。釣に行きたくなる。

 フクシア(Fuchsia):花壇・鉢物
 アカバナ科の常緑小低木 原産は中央アメリカ、オーストラリアなど 方言名:なし
 フクシアは学名のFuchsia hybridaから。『沖縄園芸大百科』には和名としてホクシャとあるが、これはフクシアが訛ったものであろう。『沖縄植物野外活用図鑑』にはツリウキソウ(釣浮草)という和名が紹介されてある。葉の腋から長い花茎を出し、花が垂れ下がって下向きに咲く様を釣浮に見立てたものだと思われる。
 原産地は中央アメリカ、南アメリカ、オーストラリアで、約100種が自生しているとのこと。種を交雑させて、たくさんの品種があるらしい。原産地では高さ2mになる品種もあるそうだが、日本で見るものは高さ40〜100センチほど。
 花色は白、紫、紅色など。春から初夏にかけて開花。生育適温が5〜15度くらいとある。そんな気温、沖縄では年に1ヶ月も無い。写真は北海道で撮ったもの。

 花1

 花2
 記:島乃ガジ丸 2007.3.14  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
 『寺崎日本植物図譜』奥山春季編、(株)平凡社発行
 『琉球弧野山の花』片野田逸郎著、(株)南方新社発行
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