ハイビャクシン
 人の好き嫌いとは十人十色、百人百様、千差万別あって、それらはまた、理由のつかないことも多い。「何で好きなの?」、「何で嫌いなの?」と問うても、「好きだから」とか「嫌いだから」ということによる。理屈では計れないようなのである。
 私の父親が食物の好き嫌いの激しい人で、母は概ね父の口に合うものを作るので、私の家の食事はバラエティーの貧弱なものとなっていた。一緒に住んでいる頃、私は私が食べたいものを、別途、自分で買ってきて、自分で料理しなければならなかった。まあ、そのお陰で私は、料理ができるようになったわけである。
 肉料理なんて昔はそう頻繁に食卓に上らなかっただろうに、父は肉が大好きで、昔は魚料理や野菜料理がほとんどであっただろうに、父は魚や野菜が嫌いである。「何で?」と問うても、「そうなんだから、しょうがないだろう」ということになる。

 従姉の別荘の庭の一角に、グランドカバーとしてハイビャクシンを植えた。ハイビャクシンは順調に育ち、もう後1年もすれば、刈り込んで、きれいなグランドカバーになるだろうなという頃に、夫の転勤の関係で数年間沖縄を離れていた従姉が、夫婦共々帰って来た。帰ってきてしばらく後、別荘を訪ねると、順調に育っていたはずのハイビャクシンが消えていた。「刈り込めばきれいになるのに、どうしたの?」と訊くと、「私、ああいうの嫌いだから、引き抜いたわよ」ということであった。「何で嫌いなの?」と訊くのは愚問であろうと承知していながら、でも訊いた。「嫌いだから」という答えが返ってくるかと思ったら、従姉の理由ははっきりしていた。「モジャモジャしているから」だと。
 そのモジャモジャ具合がハイビャクシンの魅力なのだ。頭が良いからとか美人だからとか優しいからとかみたいに、その長所を嫌われてはハイビャクシンも立つ瀬が無い。

 ハイビャクシン(這柏槙):添景・地被・盆栽
 ヒノキ科の常緑低木 原産分布は北海道南部、九州、朝鮮半島南部 方言名:なし
 ビャクシン(柏槙)はイブキの一品種で、本種はそれの変種。匍匐するようにして枝を伸ばすのでハイ(這い)がついて、ハイビャクシンという名。
 沖縄には少ない針葉樹の一つ。樹高は50センチほどになるが、匍匐性があるのでグランドカバーとしても使える。葉はスギに似て細かい。池の傍、石組の傍などにあるときれい。陽光地を好み、耐潮風性も強いので海岸端の植栽にも使える。
 記:島乃ガジ丸 2006.2.4  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
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