ブッソウゲ
 今の職場に入社した20年ほど前、職場の隣の家は小さなマチヤグヮー(コンビニのような店)だった。10時、お昼、3時の飲み物などをよく買いに行った。たまには、仕事が終わった夕方にビールなどを買い、同僚達と労働後の一杯を楽しんだりしていた。
 マチヤグヮーは、オジサンとオバサンの二人で交互に店番をしていた。二人ともいかにもウチナーンチュらしい暢気な性格で、店の開店時間はランダムであり、休みの日も特に決まってなく、休業日も週に3日くらいはあったのではないかと覚えている。
 開いているか開いていないか、行ってみないと分からない店ではあったが、店の前に煙草と飲み物の自動販売機があったので、それらが欲しいときはそこへ買いに行った。
 飲み物の自動販売機はくじ付きの販売機だった。1個買うと光がぐるぐる回って、当りのマークのところで止まると、もう1個飲み物が買えるというもの。当時、私は2、3回当った記憶がある。初めて当てた時、販売機の中にオリオンビールがあることに気付き、オジサンに訊いた。「オジサン、販売機で当ったんだけど、ビールを選んでもいいの?」と。オジサンはこう応えた。「いいよー、当ったなら何でも選んでいいさあー」
 100円入れて、100円の飲み物を買って、それで、くじに当ったらさらに200円のビールが手に入るという自動販売機なんて、日本国広しといえど、ここだけではなかろうか。ほんわかした気分になる、いかにも古き良きウチナーのマチヤグヮーだ。

 コンクリートのブロック塀で敷地を仕切る家が多い中、その店は、その当時には既に珍しくなっていたブッソウゲ(ハイビスカス)の生垣で道路との境界を仕切っていた。高さ2mくらい。よく刈り込まれ、手入れされたきれいな生垣だった。ブッソウゲの生垣は、私が子供の頃は多かった。月に1、2回の手入れをすればよいのだが、忙しい現代人はそれさえもできないのだろう。ほとんど手間のかからないブロック塀を選ぶのだろう。
 職場の隣の小さなマチヤグヮーはその数年後に焼失した。幸いケガ人はいなかったが、店は再開されなかった。ブッソウゲの生垣も消えてしまった。

 ブッソウゲ(仏桑華):添景・生垣
 アオイ科の常緑低木。分布は熱帯、亜熱帯各地。方言名:アカバナー、グソーバナ
 ご存知、ハイビスカス。ハイビスカスは属名のヒビスクスからきている。
 古い時代から沖縄にあって、文献によると琉球王朝時代にブームになったこともあるらしい。その頃から数種類の品種が栽培されていたが、沖縄の気候、土壌にもっとも適していたのが赤色一重花のもので、後年、この種が広まったとのこと。で、方言名がアカバナー(赤花)となる。もう一つのグソーバナは後生花のこと。仏前に供える花という意。
 沖縄での花期は周年。園芸品種が多数あり、花の色形もさまざまある。





 記:島乃ガジ丸 2004.11.26  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
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