ベニツツバナ
 大学生の頃、友人(同郷の、つまりウチナーンチュの)と連れ立って冬の湘南へ出かけた。湘南の海は沖縄の海と印象が全く違った。季節が冬ということもあろうが、全体に暗く、黒っぽい感じがした。海は灰色(曇っていたからだが)だし、浜の砂は黒い。沖縄の海は青く、浜は白い。「ふるさと遠く離れ」としみじみ思う青年たちであった。
 我々は江ノ島まで渡ることにした。風の強い日で、「さぶい、さぶい」と口にしながら橋に近付く。向こう側から橋に近付いている人影が見えたので、顔を上げた。人影は二つあり、二つとも若い女。何やら声を上げて、我々に向かって手を振っている。二人は、高校の同級生であった。高円寺や中野、吉祥寺の駅などで偶然出会うことは想像できる。同級生の多くが中央線沿線に住んでいたからだ。しかし、この日この時間、江ノ島へ渡る橋の前で、遥か南端の島からやってきた同級生同士が出会うなんて、何という偶然なんだろうと我々は皆で驚いて、あまりの不思議に可笑しくなって、笑い合ったのであった。

 散歩で偶然出会う確立というのをちょっと考えた。江ノ島の偶然はおそらく1億分の1くらいの確立であろうが、散歩の途中、ある植物がたまたま開花時期であるという確立はそう低くは無かろうと考える。その花が2ヶ月の間咲き続けていれば、2ヶ月に1回その道を散歩すれば、1年のうちに出会う確立は10割となる。必ず出会うわけである。
 2ヶ月に1回は通る道がある。「おっ、こんなところにこんな花が」というものに出会った。「開花期に出会うなんて俺もついているな」と思った。ところが、上記の通り2ヶ月に1回歩いていれば出会う確立は10割なのである。ついているわけでも無かったのである。しかもその木、ベニツツバナは一年中咲いているとのことであった。ということはこれまでにこの花を私は何度か見ているのである。気付かなかったのである。出会う確立には「ボケーっと歩いている」割合も加味しなければならないようである。

 ベニツツバナ(紅筒花):生垣・添景
 キツネノマゴ科の常緑低木 原産分布はメキシコ、中央アメリカ 方言名:なし
 花が、色が紅くて形が筒状なのでベニツツバナ(紅筒花)という名前。
 根元から多く分枝し株立ちとなる。高さは2mほど。枝の先から花茎を伸ばし、小さな花がかたまって穂状となり、紅い筒状の花を次々と咲かせる。開花期は周年。
 原産分布地について、『沖縄都市緑化図鑑』にメキシコ、中央アメリカとあり、『沖縄植物野外活用図鑑』には南アフリカ原産とあった。ここでは前者を採る。根拠は無し。
 私の近辺ではあまり見かけない植物であったが、職場の近くの民家にあった。花はかたまって多く咲き、色も鮮やか。株立ちの樹形を生かして、生垣にするといいのではないかと思う。ただ、全体の見た目がちょっと荒れた感じがする。適宜の剪定が必要だろう。

 花
 記:島乃ガジ丸 2006.11.4  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
 『寺崎日本植物図譜』奥山春季編、(株)平凡社発行
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