オオベニゴウカン
 冬になると、大家の門の辺りは赤く染まる。染まる、というのは少し大げさな言い方だが、ブロック塀の上や地面の上に無数の赤い丸いものが散らばる。大きさはテニスボールを一回り小さくしたくらい。たくさんの丸い斑点は、遠くから見ると血痕のようにも見えて、や!何だ、殺人事件か、警察に電話しなくちゃ、なんて思う。・・・これも大げさな言い方。
 赤い丸いものの正体はオオベニゴウカンの花。ゴウカン、強姦?強姦して赤い血?・・・やはり警察に電話しなくちゃ、なんてことは無く、ゴウカンは合歓と漢字で書く。訓読みするとネム。つまり、ネムノキのこと。詳しくは後述するが、オオベニゴウカンはネムノキと同じマメ科(属は違う)で、見た目が似ているので合歓と名がついている。
 大家さんのとこのオオベニゴウカンは門の向かって右傍にあり、枝が門の上に被さっている。門冠り(もんかぶり)の松はよく見かけるが、暴れ木で、樹形はあまりきれいと言えないオオベニゴウカンを門冠りにしている家なんて、そうは無い。さすが、近所で変わり者と噂されている大家さんだけのことはある。大家さんの奥さんは、「キャリアンドラって言うんでしょ、この木。南洋のものとかいって主人が植えたものなんだけど。私はあまり好きじゃないのよね。」と言っていたが、私は大家さんの味方。「個性的でよろしい」と思っている。

 オオベニゴウカンという木が広く世間に知れ渡るようになれば、那覇空港でタクシーに乗り、「オオベニゴウカンの家まで」と言えば大家さんの家に着く、なんてことに将来なるかもしれない。言葉を短くして「ゴウカンの家まで」で済むようにもなるだろう。そして、さらに時が過ぎると、オオベニゴウカンは忘れ去られて、「強姦の家」と大家の家は思われるようになって、皆から気味悪がられるようになる。・・・なんてことにはなりません。奥さん、大丈夫です。

 オオベニゴウカン(大紅合歓):花木・添景
 マメ科の常緑中木 原産分布はボリビア、エクアドル 方言名:無し
 合歓(ねむ)という名がついているが、ネムノキはネムノキ属で、同じマメ科でも違う種だが、分類学上は同じネムノキ亜科となっていて、他のマメ科植物であるデイゴやナンバンサイカチなどと比べると近い。合歓でもいいか、となる。
 大家の奥さんが言っていたキャリアンドラは文献にも別名として記載されており、属名のCalliandraからきている。キャリアンドラは「美しい雄しべを意味する」とも書かれてある。その通り多数の長いおしべが丸く突き出して、かわいらしいパフのように見える。紅色の花は開花期も長く12月から5月。
 潮風強風に弱く、陽光を好む。風当たりの少ない日の良く当る場所に置けば花を多く見せてくれる。幹が曲がったり、枝が暴れたりして樹形が乱れやすい。適宜、剪定する。

 花
 記:島乃ガジ丸 2005.5.15  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
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