ムクゲ
 既に辞めて、今は別の職場にいる元同僚のTは、植物に詳しく、土壌や、植物の病気、害虫、取り木、挿し木、接木などにも詳しい、いわば園芸のプロであった。その彼が、今は園芸とはまったく無縁の仕事をしている。惜しいことである。
 もう5年ほども前になるか、職場の事務所が建て替えられる前のこと、古い建物の傍に小さな花壇があって、そこに珍しいムクゲが1本植えられてあった。ムクゲは1本なのであるが、その枝の先々からは違う種類の花がいくつも咲いていた。白、赤、桃、紫などさまざまな色。色だけでなくそれぞれに八重咲き、一重咲きなどもあった。「何ともまあ、珍しいムクゲだこと」と感嘆するのであるが、このムクゲはTによる作品。
 1本のムクゲのいくつかの枝に、いくつもの別の種類のムクゲの枝を接木して、接がれた枝からさまざまな色形の花を咲かす。楽しく賑やかなムクゲである。Tが、暇を見つけては一人でコツコツと、何年もかけて作り上げた作品であった。
 事務所の建替えの際、このムクゲは移植された。今は新しい建物の傍にある。が、移植する時に枝をばっさりと剪定されてしまったので、花は元の一種類だけの花となってしまった。Tの作品は消えてしまったのである。まことに残念に思う。

 ムクゲは、尨毛と書いて別の意味もある。「むく毛の犬」という言葉はよく聞く。頭頂部の薄くなった私には羨ましい言葉、「獣のふさふさと長く垂れた毛」という意。

 ムクゲ(木槿・槿):添景・生垣
 アオイ科の常緑中木 原産分布は日本、韓国、他 方言名:ハナガチ、ブンデンカ
 ブッソウゲと同じハイビスカス属。高さ3mくらいまで伸びるということ、庭での使い方が添景や生垣であるということもブッソウゲと同じである。それなのに、ブッソウゲは低木で、こっちは中木。じつは、文献によって低木にしたり中木にしたりと違いがある。つまりは、低木にも中木にもなるということ。そういう樹木は多くある。ブッソウゲに比べると自然樹形が整うので、添景に用いやすい。よって、ここでは中木とした。
 陽光地を好み、成長は速い。剪定に耐えるが、当年枝に花をつけるので、剪定は花の終わった後にする。多数の園芸品種があり、花の形は一重、八重、色は白、桃、紅など。開花期は4月から11月。お隣、大韓民国の国花となっている。 

 花1 白花一重咲き。

 花2 白花八重咲き。少しピンクがかっている。

 花3 紫花八重咲き。

 花4 紫花一重咲き。もっともよく見かける種。
 記:島乃ガジ丸 2005.10.11  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
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