クルシア
 私は琉球の平和な村で、優しい女房と可愛い3人の子供と共に幸せに暮らしている一農夫である。自然との闘いは時に厳しいものがあるが、何とか食ってはいけている。
 村は女房の生まれ里で、彼女には親戚友人が多くいるが、私は余所者であった。今の私は農民として生きているが、元はサムレー(侍)で、在所は首里。10年ほども前になるか、所用でこの村を訪ねた折、村の平和な暮らしぶりに「農夫こそ人の生きる道」と天啓を得、居着くことになった。村の娘(現女房)に一目惚れしたせいもある。

 そんな平和な暮らしをしていたある日、首里王府からの使いが現れた。王府に出頭せよと言う。王府に楯突くと後々厄介なので、要請に従い出かける。
 城から離れた奥座敷とでもいったような静かな場所にある屋敷へ案内された。部屋に入ると驚いた。何とそこには王様がいた。慌てて座を下がり、平伏していると、
 「クルシアない、近う寄れ」と仰る。近寄ると、「もっと近う」と私をすぐ目の前まで招き寄せた。そして「皆の者、下がっておれ」と命じ、部屋は二人だけとなった。
 「折り入って頼みがある」と王様は言う。実は、王と私は子供の頃からずっと同じ道場に通い、空手の修行に励んでいた。私には武芸の才があり、当時、その力と技は府下に並ぶ者が無いほど抜きん出ていた。王はそのことをよく覚えていた。
 さて、王の頼みとは、「厄介な政敵がいる、おぬしクルシヤ(殺し屋)になってくれ」とのことだった。王の命令を断ることは死を選ぶことになる。断れない。女房や子供たちの顔が目の前に浮かんだ。命令に従うと今の平和な生活を捨てなければならない。
 「あー、苦しや」と私は頭を抱えた。

 植物のクルシアは以上の話と何の関わりもない。クルシアから「苦しゅうない」、「殺し屋」、「苦しや」などが思い浮かび、話を作っただけ。

 クルシア(Clusia):添景・鉢物
 オトギリソウ科の常緑中木 原産分布は西インド諸島 方言名:なし
 名前は学名の属名(Clusia)から。全体の姿も葉の姿も同じオトギリソウ科のテリハボクに似ているところから小照葉木とか和名がついても良さそうだが、学名のクルシアがそのまま和名になっている。「苦しや」と連想する人は少ないのだろうか?
 花は枝先に着き、桃紅で大きく目立つ、開花期は6月から7月。葉は同じオトギリソウ科のフクギやテリハボクに似て、卵型で大きく、革質で光沢がある。
 高さは2〜5mほどにしかならないので庭の添景樹として使え、耐潮風性が強いので海岸緑化にも向く。また、耐陰性もあるので、鉢物にして観葉植物にも利用される。
 排水良好、高温多湿の環境を好む。樹脂からゴムが採れ、鳥餅になる。

 葉
 記:島乃ガジ丸 2012.2.15  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
 『寺崎日本植物図譜』奥山春季編、(株)平凡社発行
 『琉球弧野山の花』片野田逸郎著、(株)南方新社発行
 『原色観葉植物写真集』(社)日本インドア・ガーデン協会編、誠文堂新光社発行
 『名前といわれ野の草花図鑑』杉村昇著、偕成社発行
 『亜熱帯沖縄の花』アクアコーラル企画編集部編集、屋比久壮実発行
 『沖縄四季の花木』沖縄生物教育研究会著、沖縄タイムス社発行
 『沖縄の野山を楽しむ植物の本』屋比久壮実著、発行
 『海岸植物の本』アクアコーラル企画発行
 『花の園芸大百科』株式会社主婦と生活社発行
 『新しい植木事典』三上常夫・若林芳樹共著 成美堂出版発行
 『花合わせ実用図鑑』株式会社六耀社発行
 『日本の帰化植物』株式会社平凡社発行
 『花と木の名前1200がよくわかる図鑑』株式会社主婦と生活社発行
 『熱帯植物散策』小林英治著、東京書籍発行
 『花卉園芸大百科』社団法人農山漁村文化協会発行
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