コモチクジャクヤシ
 沖縄に魚料理は少ない。一般の家庭料理では、肉と魚を比べると肉の方が断然多い。私の母も、グルクン(タカサゴ)のから揚げ、エーグヮー(アイゴ)のマース(塩)煮などはたまに作ったが、魚の塩焼きなんてのは一度も食卓に上らなかった。ただし、刺身はよく出た。マグロもカジキも、タコもイカも、父の酒の肴のついでに、子供たちのご飯のおかずとしてちょくちょく出された。島のマチ類、イラブチャーなどもよく出た。
 それら刺身類を加えたとしても、沖縄の一般家庭では魚料理より肉料理の方が、やはり断然多い。私が魚の塩焼きを食うようになったのは、高校生になって、飲み屋に行くようになってからだ。全国チェーンの養老の滝では、サンマやサバの塩焼きを置いていた。
 養老の滝に文句を言うわけではないが、鮮度の違い(沖縄近海ではサンマもサバも獲れない)があったのだろう。私が魚を旨いと思って食うようになったのは、大学生になって東京で暮らし始めてからである。煮魚にしろ焼き魚にしろ、東京で食うものは旨かった。日本酒が好きになった。魚の卵類、タラコ、イクラ、カズノコなども食うようになった。旨かった。日本酒がますます好きになった。
 沖縄の魚で、その卵を食うのを私は知らない。もちろん、私が知らないだけで、猟師町などでは良く知られている卵もあるかもしれない。が、とりあえず、一般的では無い。コモチ(子持ち)何とかという名の食い物が沖縄の伝統の食い物には無いと思う。コモチシシャモもコモチニシンも、あるいはコモチワカメなども沖縄の食文化には無かった。

 ウチナーグチ(沖縄口)にもコモチ(子持ち)とつく名詞はある。子持ちはクヮムチと発音され、クヮムチャーブシという言葉がある。ブシは星のこと。近くに小さな星を従えた星のことを言う。解りやすい言葉である。
 植物のコモチクジャクヤシもすごく解りやすい名前。椰子であり、孔雀の羽に似た形状の葉を持ち、株立ち性で、根元の小さな株が子供を従えているように見える。
     
 コモチクジャクヤシ(子持孔雀椰子):街路・公園
 ヤシ科の常緑高木 原産分布はインドからマレー半島、他 方言名:なし
 同属のクジャクヤシは単幹性で高さ20mになる大木。こちらは高さ5mほどの、ヤマドリヤシと同じくヤシ科には珍しい株立ち性のヤシ。幹の根元から出た新しい小さな幹を子供に見立てて、子持ちと名が付いた。別名カブダチクジャクヤシとも言う。
 株立ちではあるが、幹がクニャクニャした感じのヤマドリヤシとは違い、コモチクジャクヤシの幹は直立する。幹の数もそう多くは無いので、横への広がり具合はヤマドリヤシに比べて小さい。つまり、うるささを感じない。よって、民家の庭でも使うことができる。 葉全体、及び小葉の形に特徴がある。小葉は魚の尾ひれのような形をしている。英語名はそれからきているらしく、Burmese fishtail palm。ビルマの魚尾のヤシということ。

 実
 記:島乃ガジ丸 2005.10.11  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
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