アオバナハイノキ
 もう10年以上も前になるか、仕事関係の集まりで、ヤンバル(山原、沖縄島中北部の通称)散策を経験した。その散策にはヤンバルの自然を案内するインストラクターがついていた。その頃の私はまだ、「沖縄の自然を知らなくちゃあ、沖縄の植物や動物の事を知らなくちゃあ」と強く思って(弱くは思っていた)はいなかったので、カメラも持っていなかったし、インストラクターの話も大雑把にしか聞いていなかった。
 大雑把ではあったが、「水の中にいるのはシリケンイモリです」、「コモウセンゴケといって小さいですが食虫植物です」、「あれはノグチゲラの巣です。幹の、太陽とは逆、地面に面している方に穴を空けるのは意味があるのです。」などといったことは覚えている。ちなみに、「地面に面している方に穴を空ける」の意味については、インストラクターはちゃんと説明したであろうが、ちゃんとしていない私は覚えていない。

 インストラクターの話でもう一つ記憶に残っていることがある。山道を歩いていて、高さが確か(おぼろげな記憶)5mほどの木の前で立ち止まって、「この木は○○○といいます。早春の頃に青い花を咲かせます。花数が多いのでとてもきれいです」と、私の大雑把な記憶では言っていた。大雑把な記憶であるが、それでも、「花の色は青い、花数が多い、とてもきれい」は確かな記憶として残っていた。
 植物に興味を持つようになって、植物図鑑をよく眺めるようになって、ある日ふと、その日の記憶が蘇った。「花の色は青い、花数が多い、とてもきれい」が図鑑の中の写真にあったのだ。「あー、あの時の木はこれのことだったんだ!」

 ヤンバルのインストラクターに紹介されてから10年以上、「あー、あの時の木はこれのことだったんだ!」と判ってからも5年以上は過ぎた今年(2012年)の3月、ヤンバルの有機無農薬農家Iさん農場を訪ね、その近所(山中だ)を散策した際に、青い花をたくさん咲かせている高さ4m程の木に出会った。一目で思い出した。
 「あー、俺、お前のこと知ってるぞ、えーとっ、確か、そう、アオバナハイノキ」

 アオバナハイノキ(青花灰の木)
 ハイノキ科の常緑中木 沖永良部島、沖縄島の固有種 方言名:ミジクルボー、他
 名前の由来、ハイノキは灰の木で「枝葉を焼いて媒染剤の灰を作るので」(広辞苑)とのこと。そのハイノキの仲間で青い花を咲かすことからアオバナと付く。
 方言名はミジクルボーの他、シタミチクルボーともあった。クルボーはおそらくリュウキュウガキのこと。見た目がリュウキュウガキに似ているのであろう。しかし、ミジもシタミチも不明。ミジに相当する沖縄語は水しか無いが、本種は水辺の木では無い。シタミチに相当する沖縄語は、下道、舌蜜などがあるが、文献に「山地に生える」とあるので下道では無かろう。花の蜜が特に美味いということもなさそうである。結果、不明。
 高さは4〜8mで民家の庭に向くと文献にあったが、私は、私が散歩する近所の民家では見たことが無い。散歩する那覇市、浦添市、宜野湾市、糸満市などの大きな公園でも見たことが無い。ヤンバル(山原、沖縄島中北部の通称)の山中で見つけた。沖永良部島、沖縄島の固有種とのことだが、沖縄島でもヤンバルの環境に適しているのかも。
 枝先に総状花序を出し花を10個内外つける。花は径1〜2センチほどで淡紫色。樹冠を覆うようにして咲くので満開時はよく目立ち、とてもきれい。開花期は2〜4月。果実は10〜11月に黒く熟する。材は杭に利用されるとのこと。

 花
 記:島乃ガジ丸 2012.5.25  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
 『寺崎日本植物図譜』奥山春季編、(株)平凡社発行
 『琉球弧野山の花』片野田逸郎著、(株)南方新社発行
 『原色観葉植物写真集』(社)日本インドア・ガーデン協会編、誠文堂新光社発行
 『名前といわれ野の草花図鑑』杉村昇著、偕成社発行
 『亜熱帯沖縄の花』アクアコーラル企画編集部編集、屋比久壮実発行
 『沖縄四季の花木』沖縄生物教育研究会著、沖縄タイムス社発行
 『沖縄の野山を楽しむ植物の本』屋比久壮実著、発行
 『海岸植物の本』アクアコーラル企画発行
 『花の園芸大百科』株式会社主婦と生活社発行
 『新しい植木事典』三上常夫・若林芳樹共著 成美堂出版発行
 『花合わせ実用図鑑』株式会社六耀社発行
 『日本の帰化植物』株式会社平凡社発行
 『花と木の名前1200がよくわかる図鑑』株式会社主婦と生活社発行
 『熱帯植物散策』小林英治著、東京書籍発行
 『花卉園芸大百科』社団法人農山漁村文化協会発行
inserted by FC2 system