モッコク
 沖縄本島北部、国頭(クニガミ)郡はヤンバル(山原)と呼ばれている。意味は漢字の山原が表している通り。ちなみに、南部の島尻(シマジリ)郡はシモカタ(下方)、中部の中頭(ナカガミ)郡はイナカ(田舎)との俗称がある。
 ヤンバルには開発が進んだとはいえまだ多くの自然が残っており、亜熱帯の森にはヤンバルクイナ、ノグチゲラ、ヤンバルテナガコガネなどの貴重な生物が生息している。山登りや川登りなどのエコツアーで、それらの自然を味わうことができる。

 3、4年程前に、玉辻山のエコツアーに参加した。玉辻山はそのヤンバルと呼ばれている区域内の東村にある。東村は名護市の北東に接し、太平洋側に面している。玉辻山の麓にあたる福地ダムからインストラクターの案内で山へ登る。参加者はほとんどがオジサンと呼ばれる年代の20名あまり。ユンタク(おしゃべり)しながらテクテク歩く。
 途中途中でインストラクターが植物や動物の説明をする。セマルハコガメやヤンバルクイナなどの有名なものは見ることができず、また、インストラクターが紹介するその他の動物は知らないものばかりであった。植物についても知らないものが多かったが、いくつかは、庭木や公園木として那覇の街でも見かけるものだったので、興味深く聞いた。

 山の中でモッコクの形の良いものが目に付いた。山の中なので当然手入れされているわけではない。それなのに形が良い。モッコクは元々山の中に自生する樹木なのであろう。自分に適した環境で、自分が伸びたいと思う方向に枝を伸ばし、自分が成りたいと思う自分に成れているのだろう。自由気ままに生きてきて、なお良い育ち方をしたのだろう。
 真っ直ぐ歩いていきたいのに、親の都合であっちへ曲げられ、こっちへ曲げられして、いびつな育ち方をしてしまったかもしれない若者たち、あるいは、自分が伸びる方向とはまったく違うレールの上を走らされている子供たちのことを考える。生きていくのが大変だろうなと思う。彼らには、「頑張ってね」という言葉も重荷になるんだろうな。

 玉辻山の頂上で、視界360度の絶景を堪能し、お昼時間となる。その時急に雲行きが怪しくなった。お昼は、頂上から50mも急斜面を下りて、いくぶん平らになったところで取ることとなった。みな、それぞれ場所を探して弁当を食いだした。そのとたん雨が降り出した。しだいに強くなり土砂降りとなった。みな慌てて弁当を食う。自分の体で雨を防ぎ猫背になって食っている。食っているというより、掻き込んでいるといった感じ。そんな中、私だけが落ち着いて、静かに弁当を食った。私だけが傘を持っていたのだった。皆の視線を感じながら、でも、自由な私は、のんびりと弁当を食ったのであった。

 モッコク(木斛):庭木
 ツバキ科の常緑高木 分布は日本、韓国、台湾、中国、東南アジア 方言名:イーク
 放っておけば高さ10mほどにもなるが、成長が遅く、剪定にも耐え、また、自然に美しい樹形になるので、庭木としては使いやすい。一級の主木候補と言える。
 暖地の海岸にも山中にも自生する。葉は厚く光沢がある。花は小さな、椿に似た白色。花期は4月から5月。新葉は赤みを帯びて美しい。樹皮からは茶色の染料が取れる。
 沖縄では昔から「イーク、チャーギ」と言われており、チャーギ(イヌマキ)と並んで、建築材としても高い評価をされているが、今では外国産の木材に押されて、材木屋さんでもモッコクの材をほとんど見ない。

 花

 実
 記:2005.3.11 島乃ガジ丸  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
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