クロガネモチ
 職場の敷地は広い。事務所、先代社長の家、その長男の家、次男の社長の家があり、10台は停められる駐車場があり、庭も広い。庭や駐車場周辺には多くの樹木が植えられてあって、近辺では緑の多い一角となっている。そこに寄って来る昆虫も多い。

 先週の月曜日、出勤して、駐車場から事務所へ向かって降りていくと、先代社長宅前に4、5歳くらいの男の子が虫取り網を持って立っていた。その後には3歳くらいの女の子と、さらにその後に彼らの母親、私も顔見知りの社長の妹が立っていた。3人は同じ辺りを見ている。その目の先を追うと1匹の蝶がいた。この辺りではあまり見ない蝶。ナガサキアゲハであった。母親が息子の網を使って見事捕まえた。近寄って声をかけた。
 「おはよう。それナガサキアゲハだと思いますよ。写真撮らせてください。」
 「いいですよ。ついでに、私触れないから、虫篭に入れてもらえますか?」
ということになって、私は網の中に手を入れて蝶を左手で軽く掴む。虫篭に入れる前に写真を撮ろうと右手にカメラを構える。カメラのスイッチを入れようと私がモタモタしている間に、蝶はここがチャンスとばかりに渾身の力を込めて私の手を振りほどいた。せっかくお母さんが捕まえた蝶がヒラヒラと飛んでいくのを少年は悲しげに見ていた。いやはやまったく私の大失態なのであった。少年には申し訳ないことをしてしまった。

 モチノキの樹皮から作られるという鳥もち、モチノキとは近縁種のクロガネモチからもできるらしい。その時、鳥もちさえ持っていれば、ナガサキアゲハを逃がさずに済んだかもしれない。掌にくっつけて、きれいな写真も撮れたに違いない。

 クロガネモチ(黒鉄黐):主木・添景
 モチノキ科の常緑高木 関東南部以南、沖縄、他に分布 方言名:サバムッチャガラ
 モチノキと同じモチノキ属で、全体的にモチノキより黒っぽく見えるからクロガネとつくらしいが、近眼老眼のせいか私にはそうは見えない。むしろ、幹肌はクロガネモチの方がより白っぽい感じがする。あるいは、クロガネモチは自然に放っておいても整った形になるので、剪定などの手間があまりかからない。そこから苦労が無いモチノキということになり、クロゥガネェモチで、クロガネモチとなった・・・なんてこともきっと無い。方言名のサバムッチャガラも、タイのボクシング選手の名前みたいで面白い名前だが、意味不明。想像すれば、サバは草履のこと。ムッチャガラはくっつくもの、または、くっつけるものといった意味で、草履もくっつける樹液を持った木ということか。
 高さは10mほど。成長は遅い。日当りの良い場所でよく成育するが、耐陰性もある。萌芽力が強いので強剪定にも耐える。自然に美しい樹形となる。モチノキの近縁種で、モチノキと同じくその樹皮から鳥黐(とりもち)が採れる。
 花は淡紫色で、開花期は4月から6月。これまたモチノキ同様、花よりも秋に赤く色づく実の方に観賞価値がある。

 花

 葉

 沖縄産

 沖縄産の葉
 記:島乃ガジ丸 2006.7.18  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
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