キンシチク
 私が子供の頃、沖縄はまだ米国民政府の施政下にあり、軍人だけでなく米国籍の民間人も占領軍側の人間として優遇され、現地人であるウチナーンチュとの間には大きな差別があった。なにより、彼らは沖縄のどこへでも自由に行き来できたが、ウチナーンチュは彼らの住む広大な敷地内には、許可が無ければ出入りできなかった。それは、今でもそう。
 小学生の頃、遠足でコザ(現沖縄市)やら嘉手納辺りをバスで通る時には、バスガイドのお姉さんが決まって注意することがあった。「ここはカメラ撮影の禁止地区です。」
 キンシチク!・・・写真でさえ自由に撮ることのできないキンシチクが沖縄にはかつてあった。そこは何も、個人の建物の中というわけでも無く、銭湯でもヌーディストビーチでも無い。バスが走る道路は普通のアスファルトの道。沖縄の人々の乗る車が行き交う道。青い空があり、白い雲があり、その下には建物があり、所々に樹木が立ち、草が茂っている。普通の風景がそこにあるのだが、そこは写真撮影のキンシチク。何故か?
 子供たちを乗せて走るバスの、その道路沿いにはずーっとフェンスが張られており、フェンスの向こう側はアメリカ軍の基地があった。そこで写真を撮ることはスパイ行為(たぶん、それもおそらくソ連のスパイ)と見なされるのであった。基地は今も変わらずにそこにあるが、現在はしかし、写真撮影のキンシチクでは無くなった。復帰後、ウチナーンチュに対する差別も少なくなり、ウチナーンチュは外から見える部分という制限付ではあるが、我が島の風景を自由に撮ることができるようになったのである。

 さて、今回紹介するキンシチクは、そのキンシチクとはまったく関係無い。

 キンシチク(金糸竹):公園・庭園・鉢物
 イネ科タケ亜科の常緑高木 原産分布は中国、東南アジア 方言名:なし
 本土(沖縄以外の他府県のこと)へ旅行すると、沖縄には無い景色を見る。新宿やら原宿やらの街の景色のことは置いといて、自然の風景に限って言えば、杉林や檜林の景色がそう。沖縄には無い。そして、広い面積の竹林も沖縄ではあまり見かけない。田舎へ行くとリュウキュウチクが繁殖しているのをよく見るが、それは高さ3mほどの丈しか無く、広がりもさほど大きくは無い。本土のモウソウチクに比べたら屁でも無い。
 このキンシチクも大群落となっているものはあまり無い。私は見たことが無い。10本か20本が株となって、一つの景色となっているのは時々見る。棹がきれいな色をしているので、庭の雰囲気を演出することができる。竹のある庭として主木にできる。
 棹に黄金色の線が入るので金糸竹という名になる。黄色の線は幾筋も入るので全体が黄金色に見えてきれい。高さは10〜15mほどの、沖縄では背の高い竹。 
 キンシチクの棹
 記:島乃ガジ丸 2005.8.15  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
inserted by FC2 system