カクレミノ
 これまでの人生で、恥ずかしい思いをしたことは数限りなくあると思う。例えば、知ったかぶりを指摘されたり、嘘を見抜かれたり、独善的な行為で他人を傷つけたり、などなど、いくらもあるだろうが、人間の心とは良くできたもので、それらのほとんどを、具体的には思い出せない。まあ、恥ずかしかったことをいつまでも記憶していたら、人は毎日自己嫌悪に陥ってしまう。それは無益なことだ。
 ほとんどのことは忘れてはしまうけど、やってしまった後、何度も思い出しては、「あー」と小さな叫びをあげ、反省する恥ずかしい行為もある。そんな行為をした時には「穴があったら入りたい」という気分になる。

 「あー、恥ずかしい。穴があったら入りたい。」と思っても、入る穴を探すのにも、スコップで穴を掘るのにも時間がかかりすぎる。そこで、今回、良い物の存在を知った。カクレミノである。「それを着ると身を隠すことができるという、みの。」(広辞苑)で、漢字では「隠れ蓑」と書く。若い頃の私なら、幾たびも使ったに違いない。
 オジサンという歳になるとまた、恥と思うことが少なくなってくる。鼻毛が出ているとか、ズボンのチャックが開いていたりとか、などは、もうほとんど何とも思わない。「出てる?開いてる?ヘッ、ヘッ、ヘッ。」で済ましてしまう。
 そういったことはでも、たぶん、厚顔無恥という言葉の範疇には入らないことだ。厚顔無恥を喩えるなら、先日のイージス艦による事故で見せた防衛省の対応であろう。平気で嘘を付くことであろう。ちなみに、カクレミノには「真相を隠す手段」(広辞苑)という意味もある。防衛省もできれば、カクレミノを着たかったに違いない。
 今回紹介するカクレミノは、「真相を隠す手段」とは全く関係の無い植物。

 カクレミノ(隠れ蓑):主木・添景
 ウコギ科の常緑高木 原産分布は関東南部、南西諸島、台湾、他 方言名:ウーグル
 『琉球弧野山の花』に名前の由来があった。「隠れ蓑の意で、葉の形が身を隠すのに着る蓑に似ることによる」とのこと。本種の葉は3つに裂けたり5つに裂けたり、花の付く枝ではまったく裂けなかったりする。蓑に対する私のイメージでは3つに裂けている葉が似ているのだと思う。背中と左右の腕を隠すような形の蓑。
 高さは5〜10m。自然に整った形になり、成長も遅いので民家の庭木に適する。半日陰で湿潤地を好む。成長は遅い。耐陰性が強く、乾燥にも強い。
 花は枝先にまとまってつく。淡い黄緑色の花であまり目立たない。開花期は6月から9月。果実は広楕円形で黒く熟する。結実期は10月から12月。
 葉が深く5つに裂けているのが特徴と『新緑化樹木のしおり』にあり、また、「同じ個体で葉先が3つに裂けた葉が見られる」とあったが、『琉球弧野山の花』によると、3つ5つに裂けるのは若木で、花のつく枝では全縁とのこと。全縁を私も見ている。
 広辞苑に「樹皮を傷つけて出る白汁を黄漆といい、家具塗料に用いる。」とあるが、それも知らなかった。機会があれば試してみたいと思う。

 花芽

 葉
 記:島乃ガジ丸 2008.3.1  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
 『寺崎日本植物図譜』奥山春季編、(株)平凡社発行
 『琉球弧野山の花』片野田逸郎著、(株)南方新社発行
 『原色観葉植物写真集』(社)日本インドア・ガーデン協会編、誠文堂新光社発行
 『亜熱帯沖縄の花』アクアコーラル企画編集部編集、屋比久壮実発行
 『沖縄四季の花木』沖縄生物教育研究会著、沖縄タイムス社発行
 『沖縄の野山を楽しむ植物の本』屋比久壮実著、発行
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