カエデ
 私の住むアパートからすぐ近く、直線距離にして30mほどの場所に小学校がある。今これを書いているデスクから窓の外、2軒の民家の向こうに校舎が見える。
 小学校からはいろんな音が聞こえる。チャイムの音、子供たちの騒ぐ声、お盆の頃にはエイサーの音が響き、ブラスの練習する音、合唱する歌声が聞こえてくる。
 エイサーは季節を感じる音で、概ね8月、夏の音。最近(11月)は運動会が季節を感じさせ、晩秋の音と言える。エイサーと運動会の間にもう一つ季節を感じさせる音が聞こえてくる。合唱の声だ。合唱の声は折々に聞こえるが、10月、決まって聞こえてくる歌がある。「あーきのゆーうーひーに、てーるーやーまーもーみーじー」。
 この歌は、私が小学生だった頃に、私も歌っていて、歌詞は概ね覚えている。「濃いも薄いも数ある中で、赤や黄色のカエデやツタは・・・」と続く。

 「赤や黄色」も「カエデやツタ」も実感としては無い。沖縄には、紅葉する樹木は少なく、倭国のような鮮やかな景色は望めない。雑誌やテレビで見ていて知ってはいた。大学生となって東京に住むようになってから「赤や黄色」の実際を見た。確かにきれい。
 カエデは「カエデ科の落葉高木の総称」で、いくつか種類があるらしい。紅葉で最も有名なものはイロハカエデ、私も旅先で何度もお目にかかっている。紅葉するカエデの種類が沖縄には無い。イロハカエデと思われるものを、2個所で見ているが、どちらも紅葉が浅い。茶色くなって落葉する。沖縄では紅葉するほどの十分な寒さが得られないからだと思われる。また、そもそも沖縄の気候には合わないようで、生育も悪い。

 カエデ(楓):添景
 カエデ科の落葉高木 北半球温帯に分布 方言名:なし
 カエデはカエデ科の落葉高木の総称で、名前の由来が広辞苑にあった。「カエルデ(蛙手)の約。葉の形が似ているからいう」とのこと。総称のうちイタヤカエデ、イロハカエデ、北米のサトウカエデが広辞苑に紹介されている。他にも多くあり、ヤマモミジ、オオモミジなどモミジと名の付くものも総称のうちに入っている。
 モミジ(紅葉、黄葉とも書く)は「秋に、木の葉が赤や黄色に色づくこと。また、その葉」(広辞苑)のことであるが、また、カエデの別称でもある。
 紅葉、または黄葉することで名高いカエデだが、種類によっては紅葉や黄葉をしないものもあるとのこと。また、倭国では紅葉、または黄葉する種類でも沖縄ではほとんど変化しない。元々カエデの多くは沖縄に自生が無く、植栽しても生育が悪い。クスノハカエデという種が沖縄に自生しているが、これは常緑で紅葉しない。
 「モミジと言えばこれを指すくらい代表的」と『野外ハンドブック樹木』に紹介されているイロハモミジ、私が倭国で何度も見たのもたぶんこれ、沖縄でカエデが植栽されていた(または、いる)カエデもたぶんこれ。写真のカエデはその1つ。
 イロハモミジは福島、福井以南〜九州に分布し、高さは15メートルになる落葉高木。葉は5〜7つに裂け、秋には真っ赤に色付く。花は小さく、濃い赤で4月から5月に咲くとのこと。実は2つがくっついてプロペラ状になり、風に乗って飛んでいく。
 記:島乃ガジ丸 2010.10.29  ガジ丸ホーム 沖縄の草木
 参考文献
 『新緑化樹木のしおり』(社)沖縄県造園建設業協会編著、同協会発行
 『沖縄の都市緑化植物図鑑』(財)海洋博覧会記念公園管理財団編集、同財団発行
 『沖縄園芸百科』株式会社新報出版企画・編集・発行
 『沖縄植物野外活用図鑑』池原直樹著、新星図書出版発行
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『沖縄園芸植物大図鑑』白井祥平著、沖縄教育出版(株)発行
 『親子で見る身近な植物図鑑』いじゅの会著、(株)沖縄出版発行
 『野外ハンドブック樹木』富成忠夫著、株式会社山と渓谷社発行
 『植物和名の語源』深津正著、(株)八坂書房発行
 『寺崎日本植物図譜』奥山春季編、(株)平凡社発行
 『琉球弧野山の花』片野田逸郎著、(株)南方新社発行
 『原色観葉植物写真集』(社)日本インドア・ガーデン協会編、誠文堂新光社発行
 『名前といわれ野の草花図鑑』杉村昇著、偕成社発行
 『亜熱帯沖縄の花』アクアコーラル企画編集部編集、屋比久壮実発行
 『沖縄四季の花木』沖縄生物教育研究会著、沖縄タイムス社発行
 『沖縄の野山を楽しむ植物の本』屋比久壮実著、発行
 『海岸植物の本』アクアコーラル企画発行
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